デバイス評価‗Cor-Knot
自動結紮器(Cor-Knot, LSI Solutions, NY: 写真1)が2021年3月から本邦でも販売開始となった. 本品は心臓外科領域における弁置換術及び弁形成術などに使用する純チタン製のクリップと専用機器のセットで, 縫合部位に配置した非吸収性縫合糸をアプライヤに取り付けたクリップによってクリンプして固定し, 余剰な縫合糸を切断することで結紮が完遂する.
チタンクリップによる結紮の際, 術者は多少のtactilityは感じるが, 通常糸結びの際に心臓外科医がスリップノットテクニックを用いて組織の強度を感じながら行っている締め込みのような微調整はできない. その為, 人工弁ないし弁輪がseat downした状態を確認する前にクリップを固定すると, 理論上弁座のfloatingによる弁周囲逆流 (paravalvular leak=PVL)が発生する. 特に組織が比較的弱いところではcuttingを起こすことでもPVLが 発生しかねないが, tactilityの部分で気づきにくいので注意を要する.
写真1
使用方法の手順
- COR-KNOT クイックロードのハンドルをアプライヤのシャフト先端部に差し込み, スーチャーホールから突出させる. ホルダーを押込むかハンドルを引張り, アプライヤ先端部にクリップを完全にはめる.
- ホルダーを外す. スーチャーホールからハンドルを外す.
- クリップがシャフト先端に完全にはまっていることを確認する.
- 先端のワイヤスネア内に縫合糸の両端部を通す.
- ワイヤスネアに縫合糸を通したまま, ハンドルをアプライヤのレバー方向に向かって引き, 縫合糸をクリップ内に引き込む
- 縫合糸をクリップ内に通しワイヤスネアと縫合糸の両端がスーチャーホールから出るまでハンドルを引き続けて縫合糸を引き出す. ワイヤスネアとハンドルを縫合糸から取り外し, 縫合糸の両端部を手で把持する.
- 縫合糸に張力をかけた状態でアプライヤ先端を目標部位に近付ける. アプライヤのレバーとスーチャーホールが人工弁の中心を向いていることに注意する. これを怠ると, クリップが内向きに傾斜して固定されることがあり, 弁尖への障害リスクが高まる.
- アプライヤ先端をプロテーゼ上に載せて, 把持している縫合糸を引張りアプライヤと人工弁ないし弁輪が密着している状態にする.
- アプライヤのレバーが止まるまで握り、その状態のまま1秒間レバーを握り続ける(クリップをクリンプする).
- クリップをクリンプし縫合糸を切断したらレバーを離し, アプライヤを持ち上げる. その際, クリップ及び縫合糸が周囲組織や人工弁の方に向いていないことを確認する.
MICSにおけるCor-Knotの使用経験
当院では2021年11月までにMICSにおいて計10例(MICS-MVP 9例, MICS-MVR 1例)にCor-Knotを使用した.うち, 併施手術は, 不整脈手術 3例, 三尖弁形成術 3例, 左心耳閉鎖 2例. 心停止時間105±6分, 人工心肺時間186±11分, 手術時間249±13分であった.
MICS-MVR術後1年でparavalvular leakによる再手術を最近経験したが, 術中所見ではクリップの固定そのものには問題はなかったが, 人工弁cuffの直下に直角鉗子がわずかに挿入できるspaceが存在し, 人工弁座のseat downが不十分だった, もしくは, 組織のcuttingによるPVLと判明した.
使用して感じたことは, 使用方法が非常にシンプルでトレーニングにほとんど時間を要さないこと, 人間の指より遥かにプロファイルが小さくシャフトが長い為, MICS特有の狭いワーキングスペース内でも確実で再現性の高い結紮ができるという魅力である. 結紮時の固定圧も一定となるので均一の固定圧で逢着される点も本製品の長所である. 例えば, 比較的ハイリスク患者だが, 併施手術は必要でかつ心停止時間を短縮したい状況などではMICSに限らず良い適応となるかもしれない.
本原稿を作成している2021年12月時点では保険適用の対象外となっている点が問題点だが, これに関してはデバイスが認知され普及すれば解消される問題であるので, 今後は弁膜症領域のMICSでは使用が広がる可能性は高い.