当院ではCPカニューラは正中切開と同じもの(全長15cm)を利用していましたが、体格の大きな症例では長さが足りず、時に胸壁部分でカニューラが折れて心筋保護のたびにラインを整えるという煩雑さがありました。
2019年5月からはJMSのMICS用CPカニューラ(全長19.6cm)を使用し快適にMICSを行っています。
最大の特徴は長さです。従来のものよりも4cmほど長く設計されているため、体格の大きな症例でもカニューラが折れることはありません(図1)。糸を引っかけるフランジはT字(図2)に加工され、内筒針とカニューラの段差も少なく抵抗なく刺入できるように設計されています。
私たちはCPカニューラをY字ラインに接続し使用しています(①心筋保護ラインと②ルートベントライン)。
図1
図2 フランジに糸を引っかけて |
図3 マットレスの中心に刺入 |
正中切開と同様に上行大動脈にフェルト付きのマットレス縫合を行い、その中心部を刺入します。マットレスの場所としては、右心耳の裏側にあたる部分に行うことが多いです。挿入はマットレス糸の方端をフランジに引っかけて行っていますが、この方法で行う場合、直視操作だと刺入点がカニューラで隠れてしまい見えないことがあります(図2と3)。その場合は内視鏡を利用し中心を外さないように心がけています。刺入時には圧モニター用のチューブは大気開放し、チューブ内への逆血をもってカニューラが大動脈内へ挿入されたことを確認しています。その後内筒針を抜去します。
カニューラの抜去とマットレスの結紮は単純な作業ですが、不完全な結紮にならないように体外循環のフローを一時的に1Lまで下げて行っています。追加の縫合は出血時にのみ行っていますが、この際もフローを下げて行うと簡単に止血できます。
僧帽弁手術の際、2回目以降の心筋保護液注入時には大動脈基部内のエア抜きが必要です。私たちは以下のようにして空気を抜いています。まず、図1の②、ルートベントラインの赤クランプを開放し、ゆっくりベントを効かせます。この状態で水テスト用の生食水を僧帽弁越しに左室内に注入し、ライン内の空気が抜けた時点でベントをストップ。次いで、①心筋保護ラインの青クランプを開放し追加注入を行います。心筋保護液の追加時にも注入圧を監視し、不十分な心筋保護の回避に努めています。通例は体外循環の送血圧よりも基部圧の方が高くなりますので、低い場合は不十分な心筋保護を考えておく必要があります。
上行大動脈が人工血管で置換された症例では内筒針での挿入は困難なことがあります。私たちはマットレス縫合を置いた部位を11番のメスで切開し、ロングモスキートで孔を拡大した上で挿入しています(図4)。周囲との癒着の関係から不完全な大動脈遮断にも注意しています。大動脈遮断鉗子の先端がしっかりと大動脈の左側を超えて、肺動脈を損傷しない位置にあることを確認しています。上行大動脈を遮断する際は、一時的に体外循環のフローを下げ減圧し、ロングセッシで大動脈(ここでは人工血管)を把持した状態で遮断しています(図5)。
図4 ロングモスキートによる拡大 |
図5 大動脈遮断鉗子の先端確認 |
図6 心筋保護液の注入 |
長崎大学病院
三浦 崇
2000年当時のいわゆる第一次MICSブームが早期に下火になってしまったのに比べ、現在のMICSは術式として保険収載されるまでの普及に至りました。当時と現在の最も大きな違いは、この15年間でのカニューレ、手術器具、内視鏡などの飛躍的な進歩ではないかと思います。J-MICSとして、新規製品を紹介する事はMICSの安全な普及に役立つと考え、この新規デバイス紹介コーナーを作りました。 器具がただ有るだけでなく、十分に生かすには使用法のコツを知る事も大切であるため、企業様からのデバイス紹介に加え会員施設からの使用経験を掲載いたしました。
なお、ここでは主に過去2年間程に発売されたものを紹介しています。同種のデバイスの中で先行品と比較検討したものではありません。
今後、本webでのMICS関連新規デバイス紹介を希望される企業様は事務局までご連絡ください。
2019年2月12日
J-MICS 新規デバイス委員長
名古屋第一赤十字病院 心臓血管外科 伊藤敏明