BioMedicus® NextGen

MICS におけるBioMedicus®NextGen の使用経験

東京ベイ・浦安市川医療センター
臨床工学室 長嶋 耕平
心臓血管外科 田端 実

当センターでは、胸腔鏡下右小開胸アプローチ(MICS)による僧帽弁、三尖弁手術において、頸静脈(IJV)脱血と大腿動脈(FA)送血にIJV/FA 兼用カニューレであるBioMedicus®NextGen(Medtronic 社)を使用しています。今回はIJV、FA それぞれのカニューレ使用を紹介したいと思います。

  1. IJV における使用

    MICS 時の脱血法は、単独大動脈弁症例以外は基本的に二本脱血としています。カニューレサイズは体表面積により、15Fr と17Fr を使い分けています。IJV のカニューレ挿入は麻酔科医が経皮的に中心静脈(CV)カテーテル挿入と同時に施行しています。カニューレ挿入時はエコーガイド下で確実に静脈内に挿入し(図1)、カニューレ先端の留置位置は上大静脈(SVC)と右心房(RA)の接合部より数センチ上に留置するようにしています(図2)。カニューレが深すぎると、左房の展開時にカニューレ先端がSVC 後壁や心房中隔で塞がれる可能性があります。またカニューレ挿入時点では血液の抗凝固が施行されていない為、カニューレ挿入後にカニューレ内をヘパリン化生理食塩水(ヘパ生)でフラッシュし、さらにカニューレ側孔からヘパ生を滴下注入し、カニューレ内の血液の凝固を予防しています(図3)。

    末梢血管カニュレーションにより人工心肺を作動した後心拍動下のまま、①右心耳からSVC近傍まで(図1)、②右房からIVCまで(図2)、のラインを作成する。洞不全のリスクがあるため右房からSVCへのラインは省略している。心停止させた後、右側左房切開で左房をあける。まずPV周囲のbox lesionを作成する。

    BioMedicus®NextGen の特徴として、ダイレーターとの段差が少なく経皮的に挿入しやすいことと、側孔が多いため効率よい脱血を実現できることが挙げられます

    図1.エコーガイド下による挿入
    図2.カニューレ先端留置位置(経食道エコーにて)
    図3.IJV カニューレ留置後(側孔よりヘパ生を滴下注入)
  2. FA における使用

    MICS 時の送血法は基本的にFA 送血としていますが、血管径や血管性状によりFA 送血が不可能な時は鎖骨下動脈送血(SCA)を選択しています。カニューレサイズは体表面積と血管径により、15Fr〜21Fr のカニューレを選択しています(SCA の場合は15Fr〜19Fr)。カニューレは外科的にカットダウンで動脈を露出し、動脈全面に縦長のタバコ縫合をかけてセルジンガー法で挿入します。カニューレ挿入の際はエコーガイド下にてガイドワイヤーを下行大動脈内に確認して(SCA 送血の場合は上行大動脈内に確認)、確実に動脈真腔内へ留置するように施行しています(図4)。また、カニューレ末梢側への送血を保つために、もっとも近位部の側孔が血管の後壁側に向くように留置し、またその側孔から5~10mm までのみを血管内に留置するようにしています。また、下肢虚血予防として、near infraredspectroscopy(NIRS) による下肢灌流状態のモニタリング全例で施行しています。BioMedicus®NextGen はカニューレ先端がワイヤーで強化されており(図5)、血管内で形状が保たれます。当センターでの比較試験では、非先端強化型のカニューレよりもNIRS 値低下頻度が有意に低く、より下肢虚血予防への効果が期待できるカニューレである可能性も示唆されました。

    図4.エコーによるガイドワイヤーの確認(下行大動脈)
    図5.先端強化型(左)と先端非強化型(右)のカニューレ

NextGen 2-stage脱血管の使用経験

名古屋第一赤十字病院
伊藤 敏明

当院では頸静脈穿刺脱血を行っておらず、通常の僧帽弁MICSは経大腿静脈1本脱血で行っています。したがって、従来右心房を開ける手術(TAP,ASD,時に左房粘液腫など)はSVCへの追加脱血が必要でありずいぶん手術が煩雑になっていました。

2017年1月よりMedtronicのNextGen 2stage脱血が使用できる様になったため右房を開ける、もしくは右房が開く可能性のある手術への使用を始めました。

2018年7月までに51例に使用、使用理由はMICSではTAP23例、ASD19例、左房粘液腫5例、VSD1例、その他正中切開での再手術などに使用しています。

  1. サイズの使い分け

    19~27Frまで奇数サイズがあります。当院ではBSA1.2m2前後の症例が最小で、21Frを使用。1.5ぐらいまでは23Fr、1.9までは25Fr、最大で2.07の症例に27Frを使用しました。

  2. MVP+TAP症例での使用法

    最初に通常通りMVPを行います。カニューレ先端位置は、通常のカニューレよりも驚く程深い位置で脱血が良好となります。MVP施行中はほぼ先端が胸腔内SVCから頚部に入ってしまうくらい深く挿入しておきます。胸腔鏡により、胸腔内SVC内にカニューレが透見されるので先端位置の確認が可能です。当院では透視は使用していませんが透視も有効と思います。先端を非常に深く挿入しておく理由は、図1の様に右房をジャンプするための無孔域があるため、カニューレ途中の側孔がやや右心房に入るまで深くした方が脱血良好となるためです。肥満気味で胸腔の狭い患者さんでは先端をギリギリ深く入れても側孔が右房に達せず若干脱血不良気味となる傾向がありました。左房閉鎖完了後SVCは2号絹糸でスネア、IVCはCV0ゴアテックス糸と細いターニケットでスネアします。無孔域で右房をジャンプするためにカニューレは浅くして、先端が奇静脈合流部付近となる様にします(図2)。TAPを行う際に手前にあるカニューレは全く視野の妨げとなりません(図3)。右房縫合後はスネアを解除して、再びカニューレを深くします。

    図1
    図2
    図3
  3. ASDでの使用

    ASD閉鎖には非常に有用でした。SVC,IVCのスネアはTAPに準じます。右房切開後、欠損孔の手前にカニューレが位置します(図4、すだれ状のmultiple ASD)。パッチ閉鎖の際に若干手前側の縫合操作とカニューレが干渉しますが、ASDのエッジを牽引する事で十分視野は得られます(図5;パッチ右縁の縫合)。

    図4
    図5
  4. 左房粘液腫での使用

    MICSアプローチは左房粘液腫手術に非常に適しており、左房切開のみで左房側から腫瘍付着部を内視鏡下に視認しながら正確に切除する事ができます(図6)。右房切開は不要ですが、中隔が開いてしまう事が50%程あるため予防的に2-stageカニューレを入れてSVC,IVCをスネアした状態で切除します。心房中隔の欠損には、左房側からパッチ縫着が可能です(図7)。

    図6
    図7
  5. 脱血効率

    ポンプインデックス2.2L/min/sqm、体温32度を基準として1例を除き追加脱血は不要でした。 PLSVCを合併していた1例で左房操作中に右房ベントの追加を要しました。

    総じて、経大腿静脈1本脱血での右心系手術が可能となりシンプルな体外循環の確立に有効と思われました。