Harmonic 1100

harmonic1100詳細1
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胸腔鏡下弁形成術、弁置換術におけるハーモニックスカルペルの使用経験とその有用性

国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科 西 宏之

右小開胸アプローチでは、出血性合併症に注意を要する。開胸肋間からの出血や心膜からの出血は、通常の電気メスを用いた時に、直後に止血が完了していても徐々に出血が増えてくる場合があり、早期での確実な止血を完成させることが重要である。MICSをより低侵襲にするためも出血の制御は大切な要素と言える。

当院では、特に肋間筋、心膜の切開時にハーモニックスカルペルを積極的に用いて、早期の確実な止血を心がけている、今回は我々が行っている、ハーモニックスカルペルを用いた切開法について供覧する。

ハーモニックスカルペルとしてはシザーズ型のHarmonic1100がよい。肋間筋の切除する際に皮下の筋肉そして更に肋間の筋肉を出来るだけハサミ型でしっかりと凝固させながら、止血を一回一回確認しつつ切開ができる。心膜の切開の際も、最初に小さな穴をあければそこからハサミ型のデバイスが挿入可能となる。先端が細く、視認性に優れており、シャフトも長くてMICSアプローチに適していて、360度回転可能で操作性にも優れているのも利点である。

Harmonic 1100
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我々は、大動脈弁置換術では腋窩アプローチ、僧帽弁単独手術では、nippleから外側切開のMICSアプローチ、三尖弁手術やASD手術、redo症例の場合はnippleからやや内側のアプローチを基本としている。

腋窩アプローチの場合は大胸筋の外側から肋間にアプローチすることになるが、その際に大胸筋と胸壁の間の剥離の際から出来る限りハーモニックを用いるようにしている。開胸肋間を決めたら、まずは最小限の剥離を電気メスで行い胸腔内に到達する。その後はそこからハサミ型のハーモニックスカルペルを挿入し、内側および外側に肋間切開を進める。外側は同じ肋間からカメラポートを挿入するので、やや多く剥離している。

Harmonic 1100
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やや内側に切開がよる場合は大胸筋の切開が必要である。この時も筋肉切開の際からハーモニックスカルペルを用いるのが良い。止血が完全に達成されていることを確認しつつ筋肉切開を最小限に行い、肋間に到達してから、電気メスで最小限の穴で胸腔内に達してからハーモニックを用いて肋間を切開していく。

Harmonic 1100
Harmonic 1100

心膜を切開する際は、最初に鑷子で心膜を把持し、心臓の組織を把持していないことを確認して、ハーモニックではさんで切開することも可能である。その後、その穴からハーモニックを挿入して上下に切開を延長していく。胸腺組織などの脂肪組織が心膜を覆っているような症例では、まず脂肪組織の切開をハーモニックで行うと後からの出血を少なくすることができる。心膜切開の際は黒色のブレードを外側にして、内部の大動脈や心臓組織への熱傷を防ぐのが重要なポイントとなる。

Harmonic 1100
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ハーモニックの出力であるが、当初はレベル2で行っていたが、止血効果は十分である一方で時間がかかりすぎる傾向があった。最近ではレベル5で行っており、この場合でも止血効果を維持しつつ、比較的早く切開が可能となった。実際は切開する度に止血を確認してレベルを調整するのが肝要と思われる。

筆者はハーモニックを採用してから、人工心肺終了時の止血が全体的に楽になったと感じている。心膜や周囲の脂肪組織、肋間筋からの出血はほとんどなく、止血操作としては確認する程度でよくなった。MICS手術をより低侵襲にできるようになったと実感している。

問題点としては、費用と切開に時間がかかることがdisadvantageとなる点である。超音波凝固切開加算がつくのと術後の心膜からの止血操作がほとんど不要で出血量が全体的に減ることを考慮すると時間的な要素は最終的には相殺されると考えられる。

最近のトレンドとしては、MICSアプローチの切開創が徐々に小さくなってきているが、そのような場合でも切開創部の止血は重要であり、大きめの切開創ではよりその利点がクローズアップされてくるようになるので、ハーモニックスカルペル等のエネルギーデバイスはもはやMICSの必須のアイテムと言っても過言ではないと思われる。